20120125

ブラジル渡航レポート Vol.29

ブラジル渡航レポート

千葉支部長 中村 理


今回の渡航レポートは本部の新たな稽古場Mazombaで感じたことを。

Mazombaはイタグアイ中心部からバスで30分ほどの場所。
この市営学校は山の中、川沿いの自然豊かな所に建っていた。
この日はMestre Decio、柳生、松本と共に現地へ。


市の要請で始まったというこのcapoeiraクラス。
イタグアイでは12歳~18歳までの子どもは無料でスポーツを習うことが出来るプロジェクトがあり、近辺の子どもたちはこの恩恵を受けている。
午前中と午後の計2本、Mestre Decioによる稽古が行われていた。

この日は午前は2名、午後は10名ほどいただろうか。
子ども達は皆、終始真剣な眼差しで稽古を受けていた。


通常稽古においては上記のような態度が理想なのだが、子どもクラスではそういかないことがほとんど。
どこの国でも子どもはヤンチャなものだ。
ただ、Mestre Decioが稽古中に放ち続けるcapoeiraに対する熱意が彼らの集中力を保たせているのだと思う。
そして合間合間でみせる温かな視線も、Mestre Decioの魅力の一つだ。

午前と午後のクラスの合間に体育のクラスがあったのだが、そちらも見学、体験させて頂いた。
ブラジルの学校内に入ってcapoeiraの稽古をすることはあっても、学校の授業を目にするのは初めて。
貴重な体験をさせて頂いた。
内容は2チームに分かれて丸めた紙をリレー方式で袋に入れ、先に手元の紙を全て運んだチームの勝ちというシンプルな遊び。
負けたチームは罰ゲームあり。

日本の中高校生にやらせるものとしては少し内容が稚拙だったのか、集中力を欠いた生徒もちらほら。
ただ興味深いのはその子らがcapoeiraのクラスにおいてはしっかりと集中して稽古していた点だ。

指導する者が指導内容にどれほどの気持ちを注いでいるか。
この差は大きい。
体育の先生も素敵な方だったが、紙玉リレーに生涯を捧げているわけではない。

「capoeiraを生業にする」
これはブラジルでも非常に難しい。
capoeiraで収入を得て生きていくことが大切なわけではない。
良いcapoeira家になるための必須条件でもない。
ただ、ブラジルで働きだしたら稽古から離れていく生徒が多いことが少しさみしいのだ。
もう少しブラジル国内でもcapoeiraが市民権を勝ち取れればこの状況は良くなっていくのかもしれない。
その手立ての一つとして、教育現場への更なる参入がある。

しかしMazonbaのような市営の学校でcapoeiraを指導するくらいでは生活出来る程の収入は望めない。
少なくとも州立レベルの学校での仕事でなければ難しいのがほとんどなのだそうだ。

体育科目の趣旨が「心の通った体を育む学び場」であるならば、capoeiraも十分それらは養える。
capoeiraも今以上に教育現場に入っていけるポテンシャルは十分にあるのだ。
問題はその指導者がどれだけ真摯にcapoeiraと向き合えるか。
それだけだ。
つまり「教育現場にcapoeiraが入っていくのが難しい」のではなく、「信念をもってcapoeiraを続けていく」ことが難しいのだ。

上にも書いた通り、イタグアイでは仕事を始めるようになってからcapoeiraから離れてしまう生徒が多い。
大抵は仕事で疲れてしまい稽古にいくことが億劫になる者がほとんどだ。
Mestre Decioは若くして学校に行けず、家族を養わなければいけないような生徒には必ず手を差し伸べる。
忙しさを盾に稽古にこない者には見透かした様に「それでも稽古しなさい。capoeiraを信じなさい。」と諭す。
capoeiraに信念をもつMestre Decioの言葉は眩しく、重い。


世の中には見渡せば素晴らしい事がたくさんある。
だからまずは頭を上げて、五感を澄まし、自分を懸けるものを感じとる。
あとは自分が信念をもってその事に打ち込むのみ。

それで人生が変わる。

どんなスポーツでも音楽でも文化でも良い。
真に愛するものを前にすれば無限の可能性を感じることが出来る。

我々の場合はそれがcapoeiraであるのだろう。

特別な人間である必要はない。
信念をもって挑めば誰でも道を切り開くことが出来る。
Mestre Decioは自らの生き方でそれを証明している。

そんな信念を備えた若者が指導者として教育機関に入っていけば、capoeiraはブラジル国内においてもっともっと市民権を得ていくだろう。
その地で育まれた文化が職の一つとして認められ、それを習う機会が学校教育の中にある。
文化が人を育て、それが愛国心になる。
国益に繋がる。
そして何より夢がある。
ブラジルも日本も、子どもが夢を持てる社会になれれば未来は明るい。

私もMestre Decioのように信念をもってこの道を歩み続けていきたい。
そして周りにいる生徒の皆さんが生涯capoeiraと共に生きていける場を創り続けたい。
その中で信念を継ぐ弟子と巡り会えれば、この上なく幸せな人生になるだろう。

その為に今日もまた、精進あるのみ。